ちょっとした宮古語

ぴーっちゃがまぬ みゃーくふつ

水納島方言のこと

水納(みんな)島方言

水納島方言は、方言で〈みんなふつ 〉と言い、沖縄県宮古郡多良間村水納島で話されていた宮古語の一方言です。水納島宮古島石垣島の間に浮かぶ砂地だけの小さな島です。その南に多良間島が位置し、この二つの島が合わさって、宮古郡に属する多良間村を形成します(写真、宮古行きのプロペラ機より)。ちなみに、2005年の宮古島市の誕生で宮古群の所属は多良間村だけとなってしまいました。

多良間村多良間島(前)と水納島(奥)

水納島には1960年代初頭まで200人もの住民がいましたが、1961年から1962年にかけて、島民のほとんどが集団移住で宮古島に渡って高野という集落を作って、そこで新しい生活を迎えました。高野の創設にはまた、大神島という別の離島からの移住者も同じぐらいの人数で加わっています。それで、同じ村の中で、系統のかなり異なる方言を話す人々が共に生活を営むようになったわけです。移住直後の言語状況について詳しい聞き取りをしていないので、推測に過ぎませんが、このような背景のもとでは、高野への移住と同時に、伝統的な水納島方言の言語継承が途絶えたと考えられます。これは、水納島方言を最後に習得できた世代は、島で生まれ育った最後の世代、つまり、1940年代前半に生まれた世代に当たるということになります。現時点では(2024年)水納島方言を流暢に話せる人は十人がいるか、いないかぐらいの状況でしょう。

水納島方言は、多良間島で話されている多良間方言にはそれと難なく通じるぐらい近いのですが、音韻論(使用する音とそのパターン)など多良間方言と大きく異なる特徴も見られます。例えば、水納島方言では〈イ゜〉の母音が多くの子音の後に〈〉に合流しているし、また、〈リ゜〉が〈〉または〈〉に変化しています(比較表参照)。ちなみに、これは学習者にとってありがたいもので、このように音が変化したおかげで、水納島方言は多良間方言に比べてだいぶ発音しやすくなっています。

語彙多良間方言水納島方言
「ナマコ」 すキ゜ー すきー
「聞く」 キ゜キ゜ きき
「足」 ぱギ ぱぎ
「旅」 たビ たび
「三日」 ミ゜ーか みーか
「頭」かなまリ゜ かなまい
「東」あがリ゜ あがい
「西」いリ゜ いり
「ニンニク」 ぴリ゜ ぴり

ことはじめ

さて、水納島方言はどんなことばなのか、さっそく見てみましょう。若者が年寄に出会ったときの日常会話の例です。

 
しゅりー
元気で
わー]ん[べー]ん 
いらっしゃるかな
「お元気でいらっしゃいますか?」


 
ばー]れ
お利口
[っヴぁまい
君も
しゅりーどぅ
元気でぞ
ぶいだら[ー 
いるだろう
「ありがとう、君も元気か?」


 
お]ー
はい
[しゅりーどぅ
元気でぞ
ぶ]い 
いる
「はい、元気です」


 
んだ]んけーが
どこへか
わーいば 
いらっしゃるか
「どこにいらっしゃいますか」


 
ぴさらんけーどぅ
平良へぞ
いきってぃ
行って
く]ーずー 
来よう
平良(ひらら)に行ってくる」


 
きゅー]や
今日は
じょーわーつきや[ー 
いい天気ね
「今日はいい天気ですね」


 
てぃだ]ぬ
太陽が
ちゅーしゃんどぅ
強いにぞ
[きゅーま]い
今日も
あっ[ちゃ
暑さ
あ]いな[ー 
あるね
「太陽が強くて今日も暑いね」


いかがでしょう。

短い会話例ではありますが、水納島方言の特徴がよく出ています。例えば、目上の人に対して使うことが必須の尊敬語は〈わーい〉「いらっしゃる」の動詞によって表されています。これは八重山語や沖縄古語と共通の特徴ですが、尊敬語に〈-あまイ゜〉の派生形を使っている宮古語の他の方言とは違います。また、形容詞は名詞形や副詞形を作る〈-しゃ〉と動詞の〈あい〉「ある」から成る表現を使います。なので、〈あっちゃ あい〉は直訳すると「暑さある」になりますけれども、意味は単に「暑い」です。これも八重山語と同じで、宮古島の方言と違うところですが、これに対して、宮古語にしか見られない特徴もちゃんと備わっています。一つの例を挙げると「~も」を表す〈~まい〉です。

 
あ]らな[ー 
それではね
「またね!」