ちょっとした宮古語

ぴーっちゃがまぬ みゃーくふつ

ちょっとした宮古語 Vol.1「自己紹介」in 皆愛方言

 

ちょっとした宮古語 Vol.1 「自己紹介」in 皆愛方言を解説してみましょう。

【表記】

解説中は宮古語の言葉を〈〉の記号で囲みます。日本語にはなく、宮古語にしかない音はカタカナで表記します。〈イ゜〉は〈〉ではなく、慣習的に「中舌母音」と呼ばれる音を表します。表記の詳細な解説はまた後日に行います。

【会話】

京子:ヴヴぁが なーゆばー のーてぃが あイ゜が?(君の名前はなんというの?)

ミガ:ばが なーゆばー みがてぃだイ゜(私は「ミガ」と言います)

京子:ヴヴぁ んざぬ ピとぅが?(君はどこ出身?)

ミガ:ばやー んなーイ゜ピとぅ(私は皆愛出身です)

京子:ヴヴぁー んざんが うーが?(君はどこに住んでいるの?)

ミガ:ばやー 東京んどぅ うー(私は東京に住んでいます)

京子:すぐとぅーばー ヴヴぁ のーが しーゆーが?(仕事は何しているの?)

ミガ:ばやー しーどぅ(私は学生です)

京子:みゃーくんかい のーっすかが キ゜すたーが?(宮古島に何しに来たの?)

ミガ:ばやー みゃーくふっつぅどぅ なろーが キ゜すたー(私は宮古語を習いに来た)

【語彙】

〈ヴヴぁ〉 あなた。君。同等や目下の人にしか使わない。
〈なー〉 名前。
〈のー〉 何。
〈あイ゜〉 言う。
〈ば〉 私。助詞〈~が〉(~の、~が)としか使わない。
〈みが〉 ミガ。宮古の伝統的な名前。
〈んざ〉 どこ。
〈ピとぅ〉 人。
〈ばやー〉 私は。〈ばん〉(私)の主題形。
〈んなーイ゜〉 皆愛(みなあい)。皆愛集落。
〈うー〉 いる。住む。
〈すぐとぅ〉 仕事。
〈しーゆー〉 している。〈っす〉(する)の進行形。
〈しーどぅ〉 学生。日本語の「生徒」。どの年代の学生も指す。
〈みゃーく〉 宮古宮古島
〈キ゜すたー〉 来た。〈キ゜す〉(来る)の過去形。
〈みゃーくふつ〉 直訳:「宮古口」。宮古語宮古方言。
〈なろー〉 習う。勉強する。

【解説】

相手の名前を尋ねるときや自分の名前を言うときに、決まった言い方を使います。直訳すると「君の名前をばなんと言うか?」「私の名前をばミガと言う」のようになります。

●〈ヴヴぁが なーゆばー のーてぃが あイ゜が?〉
●〈ばが なーゆばー みがてぃどぅ あイ゜〉

では、この表現を詳しく見てみましょう。〈ヴヴぁ〉(君)や〈ば〉(私)に付いている〈~が〉は日本語の「~の」に対応します。

●〈ヴヴぁ なー〉(君の名前)
●〈ば なー〉(私の名前)

〈なー〉(名前)に付いている〈~ゆばー〉は日本語の「~をば」に対応しており、目的語を表す〈~ゆ〉(~を)と主題を表す〈~ばー〉(~は)から成ります。日本語でも「~をば」という表現がありますが、宮古語の〈~ゆばー〉を単に「~は」と訳することが多いです。

〈のーてぃが〉は直訳すると「何とか」となります。〈~てぃ〉は引用助詞で、「~と」を意味します。〈~が〉は疑問助詞で、「~か?」を意味します。文の最後に来る動詞〈あイ゜〉(言う)の後にも出てきます。つまり、疑問詞(「何」、「どこ」、「誰」など)を含む疑問文では、疑問詞のところと、疑問文の最後に〈~が〉を付けるわけです。

●〈のーてぃ あイ゜〉(なんと言うの?)
●〈のーゆ しーゆー〉(何をしているの?)

疑問文に対する答えでは、疑問されたところの回答の部分には必ず〈~どぅ〉(~ぞ)という助詞を加えます。そのため、名前を言うときに、名前のところに〈~どぅ〉を付けなければなりません。

●〈ばが なーゆばー みがてぃどぅ あイ゜〉(私の名前は「ミガ」と言います)

この〈~どぅ〉は古典日本語の「~ぞ」に対応していると言われていますが、現在の日本語ではそれに似た言葉がないので、〈~どぅ〉を正しく使うことは難しいです。

さらに〈~どぅ〉とそれに続く〈あイ゜〉(言う)が詰まることもあり、その場合は〈~だイ゜〉の発音となります。

●〈ばが なーゆばー みがてぃどぅ あイ゜〉(私の名前は「ミガ」と言います)
●〈ばが なーゆばー みがてぃだイ゜〉(私の名前は「ミガ」と言います)